老犬が発症しやすい腎臓病の食事療法を解説

老犬腎臓病 食事

老犬が発症しやすい腎臓病の食事療法を解説

老犬が発症しやすい慢性腎臓病について解説します。
老犬が慢性腎臓病を発症する原因や、慢性腎臓病の進行を遅らせるための食事療法についても以下で詳しく紹介します。

慢性腎臓病は老犬になると発症率が高まる

犬の慢性腎臓病(慢性腎不全)とは、加齢などの理由により、腎機能の低下が3ヶ月以上持続する病気です。
中年齢〜高齢の老犬では一般的な疾患で、犬の年齢が5〜6歳以上で発症率が増加する傾向にあります。
以前は「慢性腎不全」とも呼ばれていましたが、現在では「慢性腎臓病」という用語が主に使用されています。

 

どうして老犬は慢性腎臓病になりやすい?原因と腎臓の働きについて

老犬腎臓病 食事腎臓は、体の活動を支えるための以下のような重要な働きを担っています。

  • 血液をろ過し、尿とともに老廃物を排出する
  • 体内の水分やミネラルバランスの調整
  • 血圧を調整するホルモンの分泌
  • 血液を作るホルモン(エリスロポエチン)の調整
  • ビタミンDを活性化し、カルシウムの吸収を助ける

しかし、腎臓を構成するネフロンが加齢などで傷つくことで腎機能が低下する慢性腎臓病は、これらの働きができなくなります。
慢性腎臓病を発症すると老廃物を尿として排出できなくなるため体内に毒素がたまり、尿毒症などの症状を引き起こします。

 

老犬の慢性腎臓病の進行を遅らせるためには?

老犬腎臓病 食事加齢などで低下した老犬の腎機能は回復できません。
そのため、慢性腎臓病を発症した後は、食事療法により腎臓の負担を抑え、病気の進行を遅らせることが重要です。
老犬の慢性腎臓病の食事療法には、腎臓の負担となる栄養成分(タンパク質、リン、ナトリウムなど)を調整した腎臓病用の療法食を用います。
療法食は一般的なドッグフードとは異なり、獣医師の診断・指導にもとづいて給餌します。

犬の慢性腎臓病は、適切な食事療法を行うことで病気の進行を遅らせる効果があり、食事療法を行わなかった慢性腎臓病の犬よりも寿命が長くなると報告されています。※1

※1:Clinical evaluation of dietary modification for treatment of spontaneous chronic renal failure in dogs

 

老犬の慢性腎臓病療法食、5つのポイント

老犬腎臓病 食事タンパク質の調整

腎臓病用の療法食は、腎臓に負担をかけないよう、タンパク質の量が適切に抑えられています。
タンパク質は犬に欠かせない栄養素ですが、腎臓病により腎機能が低下すると、タンパク質を代謝するときに出る尿素を十分に排泄できなくなります。
排出できない尿素は体内に蓄積され、尿毒症などを引き起こします。

そのため、慢性腎臓病の老犬はタンパク質の摂取量を制限する必要があります。
腎臓病療法食は、タンパク質を適切量摂取できるよう調整されています。

 

リンの調整

慢性腎臓病の老犬は、リンを効率的に排出できなくなります。
そのため、体内にリンが蓄積され過ぎないように、リンの摂取量を制限する必要があります。

慢性腎臓病の老犬がリンを過剰に摂取すると高リン血症を引き起こし、さらなる腎機能の低下により死亡リスクが増加するとされています。

また、リンを制限した食事を与えた腎臓病の犬は、腎機能低下の進行が遅くなり、生存率が上昇したという報告があります。※2

※2:Beneficial effects of dietary mineral restriction in dogs with marked reduction of functional renal mass.

 

ナトリウムの調整

犬は他の動物と比べナトリウムの耐性が高いため、慢性腎臓病の犬でも適量であれば摂取しても問題は起こりづらいとされています。
しかし、慢性腎臓病が進むに連れ、ナトリウムを排出する能力が低下するため、ナトリウム摂取量に注意が必要です。

また、腎臓病と併せて心臓の病気を持つ老犬は、ナトリウムを制限しないと血圧が上昇して心臓に負担をかけてしまう恐れがあります。

ただし、ナトリウムは細胞の機能に欠かせない栄養素です。
腎臓病療法食により適切な量を与えることが重要になります。
心臓病や慢性腎臓病末期の犬のナトリウム摂取量については、かかりつけの獣医師に相談しながら調整しましょう。

 

エネルギー量の調整

慢性腎臓病の老犬は、食欲が次第に低下していきます。
そのため、腎臓病療法食は効率的にエネルギーを補給できるよう、エネルギー量が調整されています。
腎臓病の食事管理のためにタンパク質を制限すると、食事から得られるエネルギー量が低下します。
そのため、腎臓病療法食では、タンパク質を制限しながら老犬が健康維持に充分なエネルギー量を満たせるようカロリーが調整されています。

 

オメガ3系不飽和脂肪酸の追加

慢性腎臓病の犬に必須脂肪酸(オメガ3系不飽和脂肪酸)を含んだ食事を与えることで、腎機能低下の進行を遅らせるという報告があります。※3

※3:Beneficial effects of chronic administration of dietary ω-3 polyunsaturated fatty acids in dogs with renal insufficiency

オメガ3系不飽和脂肪酸には、ネフロンの毛細血管の炎症を緩和する効果があるとされています。
慢性腎臓病の原因は、ネフロンが加齢とともに傷つき、腎機能が低下することで起こります。
そのため、慢性腎臓病の老犬にオメガ3系脂肪酸を含んだ療法食を与えることで、ネフロンが傷つくのを遅らせるとされています。

ただし、オメガ3系不飽和脂肪酸は酸化しやすい特徴があるため、食事の際にフードに加えるのがよいでしょう。
また、腎臓病により食欲が低下している場合は、オメガ3系脂肪酸を無理に食べさせるのではなく、タンパク質やリンの制限を優先することをおすすめします。

 

老犬へ腎臓病療法食を与えるときのポイント

老犬腎臓病 食事慢性腎臓病が進行すると食欲低下などの症状が現れます。
また、療法食は通常のドッグフードと味が異なるため、食いつきが悪くなることもあります。
そのため、腎臓病の療法食を食べない場合は、以下のような工夫で飼い主が愛犬の食欲をそそるようにしてあげましょう。

  • フードを温める
  • フードに水分を加えて柔らかくする
  • 食事を数回に分けてあげる

また、慢性腎臓病が進行すると体内に必要な水分量を確保できず、脱水症状になる危険性があります。
そのため、いつでも新鮮な水を飲めるように飲水を頻繁に交換する、水が飲める場所を複数設置するなど、老犬が水分をしっかり摂れる環境を用意しましょう。

腎臓病療法食切り替えについての関連記事はこちら

 

老犬が慢性腎臓病になったら療法食でケアを

愛犬が慢性腎臓病になったら、腎臓病療法食を手作りしたい飼い主の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、腎臓病に最適な栄養素を手作りで配合するのは非常に困難です。
老犬の腎臓病に最適な栄養素が配合された療法食で、愛犬のQOLを高めてあげましょう。

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獣医師・宿南章獣医師

投稿者プロフィール
【文責】 獣医師・宿南 章(しゅくなみ あきら)
   
【資格】 獣医師免許(1993年取得)
   
【所属団体】 The Royal Society for the Protection of Birds 会員

日本盲導犬協会 会員

野生動物救護獣医師協会 正会員
   
【プロフィール】 1969年生まれ 兵庫県養父(やぶ)市出身。

日本大学農獣医学部(現日本大学生物資源科学部)獣医学科卒業。 獣医師。
横浜で犬猫の動物病院に勤務。その後、米国のCAM( Complementary and Alternative Medicine )を日本に導入している 研究所に移籍。北海道の農協の依頼を受け、牛のサルモネラダブリン症の治療を行い、当時抗生物質も効かない病気を治癒させるなど、数多くの治療実績を持つ。
その後、予防医学に特化した自然療法動物病院を設立し現在に至る。

   
【研修・研究内容】 1983年…アメリカ ウィスコンシン州、400エーカーの酪農家で住み込み実習

1985年…北海道 中標津 200頭飼育の酪農家で住み込み実習

1988年…獣医薬理学研究室にて薬草の薬理作用の研究(3年間)

1993年…アメリカ カリフォルニア州 医療研修(1回目)

1994年…アメリカ カリフォルニア州 医療研修(2回目)

2006年…オーストラリア メルボルン イアンゴウラー財団でガン医療研修
   
【論文】 Efficacy determination test for the Vibrational therapy in case of the skin ulcer induced on mice A.SHUKUNAMI Eastern Medicine 2004
   
【著書】 「薬いらずで愛犬の病気は治る」WAVE出版 は、17部門で1位を獲得するベストセラーとなり高い評価を得ている。

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