犬の腎臓病の餌について獣医師が解説|療法食の選び方や与え方も

犬腎臓病餌

犬の腎臓病の餌について獣医師が解説|療法食の選び方や与え方も

腎臓病の犬の餌は、腎臓に負担をかける栄養素を抑え、健康維持に必要な栄養素やエネルギーのバランスが求められます。
ここでは犬の腎臓病の餌について、これらの栄養素が重要な理由を獣医師が解説します。
また、腎臓病の犬の餌(療法食)の選び方や与え方、餌を食べない時の対処法など、以下で詳しく解説します。

犬の腎臓病に良い餌は?

犬 腎臓病 餌

犬の腎臓病には、「IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)」などの研究結果から、以下の栄養素が調整された餌が良いとされています。

  1. タンパク質の調整
  2. リンの調整
  3. ナトリウムの調整
  4. エネルギー摂取量
  5. オメガ3系不飽和脂肪酸

これらの栄養素を適切に調整した餌を用いた食事療法を行うことで、病気の進行を遅らせる効果があり、食事療法を行わなかった慢性腎臓病の犬よりも寿命が長くなると報告されています。※1

※1:Clinical evaluation of dietary modification for treatment of spontaneous chronic renal failure in dogs

 

1.タンパク質の調整

腎臓病により腎機能が低下すると、残された腎機能でタンパク質の有害代謝産物を排泄することになり、腎機能に負担がかかります。
そのため、腎臓病の犬の餌は、腎機能の負担を軽減するため、タンパク質を適切に制限することが重要です。

しかし、タンパク質は犬の健康維持に欠かせない栄養素です。腎臓病の犬にも最適なタンパク質の量を摂取できるよう調整が必要です。

 

2.リンの調整

腎臓病の犬はリンを効率的に排出できません。そのため、餌に含まれるリンの調整が必要です。
慢性腎臓病の犬がリンを過剰摂取すると、高リン血症を引き起こし、死亡リスクが増加するといわれています。
リンを制限した餌を与えた腎臓病の犬は、腎機能低下の進行が遅くなり、生存率が上昇したという研究報告があります。※2

※2:Beneficial effects of dietary mineral restriction in dogs with marked reduction of functional renal mass.

 

3.ナトリウムの調整

腎臓病の犬はナトリウムを排出する能力が低下します。
そのため、ナトリウムを過剰に摂取すると血圧上昇などを引き起こし、腎臓に負担をかけてしまいます。
とくに、心臓病も持つ犬は血圧上昇が心臓の負担になるため、餌に含まれるナトリウム量の調整が必要です。

 

4.エネルギー摂取量

腎臓病の犬は、腎臓病の進行により食欲が低下していきます。
さらに、腎臓病の食事管理のためにタンパク質の制限をすると、餌から得られるエネルギー量が低下します。
そのため、腎臓病の犬の餌は健康維持に充分なエネルギーを摂取できるよう、カロリーの調整が必要です。

 

5.オメガ3系不飽和脂肪酸

オメガ3系不飽和脂肪酸は、ネフロンの毛細血管の炎症を緩和する効果があるという報告があります。※3
犬の腎臓病は、腎臓を構成するネフロンが傷つき、腎機能が低下することが原因で起こります。
そのため、オメガ3系不飽和脂肪酸を含んだ餌を与えることでネフロンの炎症を緩和し、慢性腎臓病の進行を遅らせる効果があると期待されています。

但し、オメガ3系不飽和脂肪酸は酸化しやすい為、食事の際に餌に加えるのが理想的です。
また、腎臓病により食欲が低下している場合は、オメガ3系不飽和脂肪酸を与えることよりも、タンパク質やリンの制限を優先するようにしましょう。

※3:Beneficial effects of chronic administration of dietary ω-3 polyunsaturated fatty acids in dogs with renal insufficiency

 

犬の腎臓病に餌が重要な理由

犬 腎臓病 エサ

犬の腎臓病と、腎臓病における餌の重要性について解説します。

  1. 犬の腎臓病とは?
  2. 腎臓病の進行を遅らせるための食事療法

 

犬の腎臓病とは?

犬の腎臓病とは、腎臓を構成するネフロンが加齢などで傷つくことで腎機能が低下し、腎臓本来の働きができなくなる病気です。
犬がシニア期(5〜6歳以上)になると慢性腎臓病の発症率が高くなる傾向があり、高齢犬・シニア犬では一般的な疾患とされています。
腎臓病を発症すると老廃物を尿として排出できなくなるため、体内に毒素がたまり、尿毒症などの症状を引き起こします。

 

腎臓病の進行を遅らせるための食事療法

犬の慢性腎臓病は、一度進行すると腎機能を元に戻すことはできません。
そのため、腎臓に負担をかけない食事療法などで、腎臓病の進行を遅らせることが重要になります。

犬の慢性腎臓病は、犬の年齢が5〜6歳以上になると発症率が増加する傾向にあるため、愛犬がシニア期を迎えた頃から定期的に検診を受けることも重要です。
腎臓病を早期に発見し、早期に食事療法を始めることが、愛犬の健康を長く維持することにつながります。

 

犬の腎臓病の餌には療法食がおすすめ

 

犬腎臓病 療法食

犬の腎臓病の療法食とは、腎臓の負担となる栄養成分を抑え、健康維持に必要な栄養素をバランスよく配合した、食事療法を目的とした餌です。
腎臓の健康維持を目的として、タンパク質、リン、ナトリウムなどの量を低減し、タンパク質やエネルギーなどの必要な栄養素が摂れるよう配合されています。

療法食は、獣医師の診断が必要です。
一般的なドッグフードとは異なり、獣医師の診断・指導に基づいた食事療法として与える必要があります。
療法食の処方について、まずは動物病院に相談してみましょう。

 

腎臓病療法食の選び方

犬の腎臓病療法食には、さまざまな種類があります。犬の腎臓病療法食を購入する際は、以下の5つのポイントにもとづいて選びましょう。

  1. 厳選された食材
  2. 着色料・香料が無添加
  3. 小粒で食べやすい
  4. 品質管理
  5. 愛犬が喜ぶ美味しさ

また、犬の腎臓病療法食は、大きく分けて以下の2種類があります。

区分 定義
ドライフード 水分含有量10%以下、加熱発泡処理された固形状のフード。
ウェットフード 水分含有量75%程度、缶詰やアルミトレー、レトルトパウチに充填されたフード。

犬の腎臓病療法食のドライフードは、栄養素を効率的に摂取できます。
そのため、通常の餌から療法食への切り替えの際は、ドライフードから与えるのがおすすめです。
まずは小袋タイプのお試し品から与え、愛犬の食いつきなどを確認してから通常サイズの療法食を購入しましょう。

 

腎臓病の犬の餌は手作りできる?

腎臓病の犬の餌は、「犬の腎臓病に良い餌は?」で解説した栄養素を調整して与える必要があるため、専門的な栄養知識が必要です。
そのため、飼い主が手作りで腎臓病用の餌を用意するのは極めて困難です。
適切に栄養が調整されていない餌を与えると腎機能に負担がかかり、腎臓病の進行を早めてしまう危険性があります。
そのため、腎臓病の犬には、最適な栄養素を配合した腎臓病療法食を与えましょう。

 

腎臓病の犬への餌の与え方

犬 療法食 餌

腎臓病を抱えるワンちゃんにはどのように餌、フードを与えたらいいのでしょうか?
ここでは詳しく説明していきます。

  1. 療法食への切り替えは時間をかける
  2. 療法食の適正量を守る
  3. 新鮮な水をいつでも飲めるようにする

1.療法食への切り替えは時間をかける

腎臓病療法食は通常の餌と味が異なるため、急に切り替えると愛犬が食事を食べなくなる可能性があります。
そのため、腎臓病療法食への切り替えは1週間〜1カ月程度の時間をかけて、これまでの餌から療法食へ少しずつ変更していきましょう。

2.療法食の適正量を守る

腎臓病療法食は、腎臓病の犬に必要な栄養素を摂取できるように計算されています。
そのため、与える量が通常の餌とは異なります。
療法食の袋に記載されている食事量を守りましょう。

3.新鮮な水をいつでも飲めるようにする

犬の腎臓病は、ステージが進行すると体内に必要な水分量を確保できず、脱水症状になる危険性があります。
そのため、脱水症状にならないよう、餌を与える時に新鮮な水を用意しましょう。
また、水分を多く摂れるよう以下のような工夫をするのもおすすめです。

  • 新鮮な水が飲めるよう、飲水を頻繁に交換する
  • 水が飲める場所を複数設置する
  • 愛犬と外出する際は携帯型の給水器を用意する

…など。

 

腎臓病の犬が餌を食べない時は?

腎臓病の犬はステージが進行するほど食欲が低下します。
そのため、愛犬が腎臓病の餌を食べない時は、以下のような食欲をそそる工夫をしてみましょう。

  • フードを温めて匂いを増す
  • ドライフードに水分を加えて、ウエットフードのように柔らかくする
  • 食事を少量ずつ数回に分けてあげる

 

腎臓病の犬の餌は療法食を

犬の腎臓病は、一度進行すると腎機能の回復はできません。そのため、腎臓病の食事療法を早期に開始し、腎臓への負担を抑えることが愛犬のQOLを高めます。
腎臓病の愛犬の餌には、タンパク質やリン、ナトリウム、エネルギーの量が計算・調整された腎臓病療法食を取り入れましょう。

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獣医師・宿南章獣医師

投稿者プロフィール
【文責】 獣医師・宿南 章(しゅくなみ あきら)
   
【資格】 獣医師免許(1993年取得)
   
【所属団体】 The Royal Society for the Protection of Birds 会員

日本盲導犬協会 会員

野生動物救護獣医師協会 正会員
   
【プロフィール】 1969年生まれ 兵庫県養父(やぶ)市出身。

日本大学農獣医学部(現日本大学生物資源科学部)獣医学科卒業。 獣医師。
横浜で犬猫の動物病院に勤務。その後、米国のCAM( Complementary and Alternative Medicine )を日本に導入している 研究所に移籍。北海道の農協の依頼を受け、牛のサルモネラダブリン症の治療を行い、当時抗生物質も効かない病気を治癒させるなど、数多くの治療実績を持つ。
その後、予防医学に特化した自然療法動物病院を設立し現在に至る。

   
【研修・研究内容】 1983年…アメリカ ウィスコンシン州、400エーカーの酪農家で住み込み実習

1985年…北海道 中標津 200頭飼育の酪農家で住み込み実習

1988年…獣医薬理学研究室にて薬草の薬理作用の研究(3年間)

1993年…アメリカ カリフォルニア州 医療研修(1回目)

1994年…アメリカ カリフォルニア州 医療研修(2回目)

2006年…オーストラリア メルボルン イアンゴウラー財団でガン医療研修
   
【論文】 Efficacy determination test for the Vibrational therapy in case of the skin ulcer induced on mice A.SHUKUNAMI Eastern Medicine 2004
   
【著書】 「薬いらずで愛犬の病気は治る」WAVE出版 は、17部門で1位を獲得するベストセラーとなり高い評価を得ている。

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