腎臓病の犬が長く生きるために飼い主ができること|獣医師が解説

犬 腎臓病 長生き

腎臓病の犬が長く生きるために飼い主ができること|獣医師が解説

腎臓病の犬が長く生きるためには、食事管理が重要です。
そこで、腎臓病の犬が長生きするために、飼い主ができることを獣医師が解説します。
腎臓病の犬が長生きするために効果的とされた研究結果や、寿命をのばすされる食事療法について、以下で詳しく紹介します。

腎臓病の犬が長く生きるために効果的とされる研究結果は?

犬腎臓病 長生き

適切な食事療法は、犬の慢性腎臓病の進行を遅らせる効果があり、食事療法を行わなかった慢性腎臓病の犬よりも寿命が長くなる、という研究結果が報告されています。※1
腎機能は一度傷つくと回復できません。
そのため、食事療法などで病気の進行を遅らせることが、腎臓病の犬の長生きにつながります。

犬の腎臓病の食事療法では、腎臓の負担となるタンパク質、リン、ナトリウムなどの栄養素を調整することが基本です。
また、腎臓に良いとされるオメガ3系不飽和脂肪酸を含んだ腎臓病用療法食を与えることが効果的だという報告があります。

※1:Clinical evaluation of dietary modification for treatment of spontaneous chronic renal failure in dogs

 

そもそも犬の腎臓病とは?

犬腎臓病 長生き

犬の腎臓病とは、腎臓を構成するネフロンが加齢などで傷つくことで腎機能が低下し、腎臓本来の働きができなくなる病気です。

腎臓は、体の活動を支えるための以下のような重要な働きを担っています。

  • 血液をろ過し、尿とともに老廃物を排出する
  • 体内の水分やミネラルバランスの調整
  • 血圧を調整するホルモンの分泌
  • 血液を作るホルモン(エリスロポエチン)の調整
  • ビタミンDを活性化し、カルシウムの吸収を助ける

 

犬の腎臓病とは?

犬の腎臓病とは、腎臓を構成するネフロンが加齢などで傷つき、腎臓機能が低下することが原因で発症します。
犬がシニア期(5〜6歳以上)になると慢性腎臓病の発症率が高くなる傾向があり、高齢犬・シニア犬では一般的な疾患とされています。
慢性腎臓病を発症すると、老廃物を尿として排泄できなくなります。
排泄できなくなった尿素は体内に蓄積され、「尿毒症」などの病気を引き起こすため、命の危険にかかわります。

 

犬の慢性腎臓病の症状

犬の慢性腎臓病は、

  1. 血液検査によるクレアチニン(CRE)濃度
  2. 対称性ジメチルアルギニン(SDMA)濃度

以上の2つの数値によって4つのステージに分類され、ステージの進行状況によって症状が変化します。

犬の慢性腎臓病の特徴的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 食欲が落ちて痩せる
  • 散歩に行きたがらない
  • 寝ている時間が増える

…など。

 

腎臓病の犬の寿命をのばすとされる食事療法とは?

犬 長生き 食事療法

腎臓病の犬の長生きをサポートする食事療法は、以下の栄養素の調整が必要になります。

  1. タンパク質の調整
  2. リンの調整
  3. ナトリウムの調整
  4. エネルギー摂取量
  5. オメガ3系不飽和脂肪酸

1.タンパク質の調整

腎臓病により腎機能が低下すると、タンパク質を代謝するときに生成される尿素を十分に排泄できなくなります。
排出できない尿素は体内に蓄積され、尿毒症などを引き起こし、命の危険にさらされます。
そのため、慢性腎臓病の犬を長生きさせるには、タンパク質の摂取量を制限する必要があります。

 

2.リンの調整

慢性腎臓病の犬は、リンを効率的に排出できなくなります。
そのため、慢性腎臓病の犬がリンを過剰に摂取すると高リン血症を引き起こし、さらなる腎機能の低下により死亡リスクが増加するとされています。
ですので、腎臓病の犬を長生きさせるには、リンの摂取量を制限する必要があります。
また、リンを制限した食事を与えた腎臓病の犬は、腎機能低下の進行が遅くなり、長生きする確率が上昇したという報告があります。※2

※2:Beneficial effects of dietary mineral restriction in dogs with marked reduction of functional renal mass.

 

3.ナトリウムの調整

慢性腎臓病が進行すると、ナトリウムを排出する能力が低下します。
そのため、ナトリウムを制限しないと血圧上昇などを引き起こし、腎臓にさらに負担をかけてしまいます。
また、心臓の病気も持つ犬は血圧上昇が負担となるため、長生きをサポートするには、とくにナトリウム制限が必要です。

 

4.エネルギー摂取量

腎臓病の犬の長生きをサポートするために食事のタンパク質量を抑えると、食事から得られるエネルギー量が低下します。
そのため、腎臓病の犬を長生きさせるには、タンパク質を制限しながら健康維持に充分なエネルギー量を満たせるよう、カロリーの調整も必要です。

 

5.オメガ3系不飽和脂肪酸

慢性腎臓病の犬に必須脂肪酸(オメガ3系不飽和脂肪酸)を含んだ食事を与えることで、腎機能低下の進行を遅らせるという報告があります。※3

犬の慢性腎臓病の原因ネフロンが加齢とともに傷つき、腎機能が低下することで起こります。オメガ3系不飽和脂肪酸は、ネフロンの毛細血管の炎症を緩和する効果があるとされる栄養素です。

そのため、慢性腎臓病の犬にオメガ3系脂肪酸を含んだ療法食を与えることで、ネフロンが傷つくのを遅らせることができ、長生きをサポートできるとされています。
ただし、オメガ3系不飽和脂肪酸は酸化しやすいため、食事の際にフードに加えるのが理想的です。
また、腎臓病により食欲が低下している場合は、オメガ3系不飽和脂肪酸を与えることよりも、タンパク質やリンの制限を優先するようにしましょう。

※3:Beneficial effects of chronic administration of dietary ω-3 polyunsaturated fatty acids in dogs with renal insufficiency

 

犬の腎臓病の進行を遅らせるために適切な食事療法を

犬腎臓病 療法食

犬の慢性腎臓病の長生きをサポートするための食事療法では、腎臓の負担となるタンパク質・リン・ナトリウムなどの栄養素を制限することが重要です。
また、新鮮な必須脂肪酸(オメガ3系不飽和脂肪酸)を多く含んだ食事を与えることで、慢性腎臓病の進行を遅らせる効果があるといわれています。

しかし、これらの栄養素を正確に計測した食事を、手作りで用意するのは極めて困難です。
そのため、腎臓病の犬の長生きをサポートする食事には、腎臓病療法食の活用がおすすめです。

腎臓病療法食は、腎臓の健康維持を目的としてタンパク質、リン、ナトリウムなどの量を低減しながら、効率的にエネルギーを補給できるよう調整されています。
療法食は一般的なドッグフードと異なり、獣医師の診断・指導にもとづいて与えます。

 

愛犬のQOLを高めるために、腎臓病の療法食を活用しよう

犬の慢性腎臓病は、一度かかってしまうと腎臓の機能を元に戻すことはできません。そのため、腎臓の負担を抑える食事療法で、愛犬の長生きをサポートします。腎臓病の愛犬のために、最適な栄養を配合した療法食を取り入れましょう。

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獣医師・宿南章獣医師

投稿者プロフィール
【文責】 獣医師・宿南 章(しゅくなみ あきら)
   
【資格】 獣医師免許(1993年取得)
   
【所属団体】 The Royal Society for the Protection of Birds 会員

日本盲導犬協会 会員

野生動物救護獣医師協会 正会員
   
【プロフィール】 1969年生まれ 兵庫県養父(やぶ)市出身。

日本大学農獣医学部(現日本大学生物資源科学部)獣医学科卒業。 獣医師。
横浜で犬猫の動物病院に勤務。その後、米国のCAM( Complementary and Alternative Medicine )を日本に導入している 研究所に移籍。北海道の農協の依頼を受け、牛のサルモネラダブリン症の治療を行い、当時抗生物質も効かない病気を治癒させるなど、数多くの治療実績を持つ。
その後、予防医学に特化した自然療法動物病院を設立し現在に至る。

   
【研修・研究内容】 1983年…アメリカ ウィスコンシン州、400エーカーの酪農家で住み込み実習

1985年…北海道 中標津 200頭飼育の酪農家で住み込み実習

1988年…獣医薬理学研究室にて薬草の薬理作用の研究(3年間)

1993年…アメリカ カリフォルニア州 医療研修(1回目)

1994年…アメリカ カリフォルニア州 医療研修(2回目)

2006年…オーストラリア メルボルン イアンゴウラー財団でガン医療研修
   
【論文】 Efficacy determination test for the Vibrational therapy in case of the skin ulcer induced on mice A.SHUKUNAMI Eastern Medicine 2004
   
【著書】 「薬いらずで愛犬の病気は治る」WAVE出版 は、17部門で1位を獲得するベストセラーとなり高い評価を得ている。

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