犬の腎臓病の療法食を徹底解説
犬の腎臓病(腎不全)の療法食について詳しく説明します。犬の療法食とは、療法食の種類、健康な犬のドッグフードとの違い、療法食の栄養素、療法食を与えるときのポイント、療法食を食べない時の対処法、療法食は手作りできるのかなど、犬の腎臓病用療法食について徹底解説します。
目次
犬の腎臓病の療法食とは?
犬の腎臓病の療法食とは、腎臓の負担となる栄養成分・ミネラルなどの量を調整したフードです。
療法食は、一般的なドッグフードとは異なり、獣医師の診断・指導に基づいた食事療法として与える必要があります。
腎臓の療法食の他にも、心臓・膵臓・皮膚・消化器、尿路結石症や食物アレルギーのサポートなどさまざまな療法食があり、症状に合わせて栄養バランスの量が調整されています。
そもそも犬の腎臓病とは?
犬の腎臓病(腎不全)とは、血液中に溜まった老廃物などを尿と一緒に排泄する、腎臓本来の働きができなくなる病気です。
犬の腎臓病(腎不全)は、
- 老化などにより腎機能が低下する慢性腎臓病
- 誤飲・事故などによる急性腎臓病
以上の2種類があります。
どちらも病状が悪化すると、高カリウム血栓や尿毒症などの症状を引き起こすため、命に関わる危険性があります。
なぜ療法食が慢性腎臓病の犬に重要なの?
犬の慢性腎臓病は、一度進行すると腎機能は回復できません。そのため、慢性腎臓病を早期発見して、早期に食事療法を開始することが重要です。
慢性腎臓病の犬に適切な食事療法をおこなうことで、病気の進行を遅らせる効果があり、食事療法を行わなかった慢性腎臓病の犬よりも寿命が長くなると報告されています。(※1)
犬の腎臓病療法食・5つの特徴
1. タンパク質
犬の腎臓病療法食は、タンパク質の量を適切に抑えているのが特徴です。
腎機能が低下してくると、タンパク質の代謝から出る尿素などの老廃物を腎臓から充分に排泄できなくなります。その結果、尿素が体内に蓄積され、尿毒症などを引き起こします。
そのため、腎臓病の犬には、タンパク質を制限した食事を与えることが重要です。しかし、タンパク質は犬の食事に必要不可欠な栄養素なので、適切量を摂取できるよう調整された食事が必要になります。
2. リン
慢性腎臓病の犬はリンを効率的に排出できなくなるため、食事に含まれるリンを制限する必要があります。
慢性腎臓病の犬がリンを多く摂取すると高リン血症を引き起こし、さらなる腎機能の低下により死亡リスクが増加するとされています。
また、リンを制限した食事を与えた腎臓病の犬は、腎機能低下の進行が遅くなり、生存率が上昇したという報告があります。(※2)
リンはさまざまな食材に含まれており適切量に調整するのが難しいため、最適なバランスに調整された腎臓病療法食を与えることが、愛犬のQOL(生活の質)維持につながります。
※2:Beneficial effects of dietary mineral restriction in dogs with marked reduction of functional renal mass.
3. ナトリウム(塩分)
慢性腎臓病が進行すると、ナトリウムを排出する能力が低下していきます。そのため、ナトリウムを制限しないと血圧上昇などを引き起こし、腎臓にさらに負担をかけてしまいます。
とくに、心臓の病気も持つ犬は血圧上昇が負担となるため、腎臓病が進行した犬はナトリウム制限が必要です。
ただし、ナトリウムは細胞の機能に欠かせない栄養素ですので、療法食により適切な量を与えることが重要です。
4. 必須脂肪酸
必須脂肪酸(オメガ3系不飽和脂肪酸)を含んだ食事を与えることで、腎機能低下の進行を遅らせるという報告があります。(※3)
オメガ3系不飽和脂肪酸は、ネフロンの毛細血管の炎症を緩和する効果があるとされる栄養素です。ネフロンとは腎臓を構成する組織で、血液中の老廃物をろ過し、尿を生成するなどの働きを担っています。
慢性腎臓病の原因は、このネフロンが加齢とともに傷つき、腎機能が低下することで起こります。そのため、オメガ3系脂肪酸を含んだ食事を与えることで、ネフロンが傷つくのを遅らせるとされています。
5. エネルギー
慢性腎臓病の犬は食欲が低下しやすいため、療法食は効率的にエネルギーを補給できるよう調整されています。
腎臓病の食事管理のためにタンパク質を制限すると、食事から得られるエネルギー量が低下します。そのため、療法食では、タンパク質を制限しながら健康維持に充分なエネルギー量を満たせるよう、脂肪量がバランスよく調整されています。
犬の腎臓病療法食の種類
ドライフードとウェットフードの違い
腎臓病療法食にはドライフードやウェット缶などの種類があります。ドライフードは栄養を効率的に摂取でき、ウェットは嗜好性が高くなる傾向があります。そのため、最初はドライフードの小袋から試してみることをおすすめします。
なお、ドライやウェットなどの区分は、一般社団法人ペットフード協会により以下のように分類されています。
形状 | 特徴 |
---|---|
ドライ | 製品水分10%程度以下のフード。加熱発泡処理された固形状のもので、袋に入っているものがほとんどです。 |
ソフトドライ | 製品水分25~35%程度のフードで、加熱発泡処理されています。 |
セミモイスト | 製品水分25~35%のフードで、押し出し機などで製造され、発泡していないものです。 |
ウェット缶詰 | 水分75%程度で、品質保持のために殺菌工程を経て、缶詰に充填されたフード。 |
原材料の違い
療法食の原材料は、メーカーにより異なることがあります。
主原料となる肉類では、鹿肉、鶏肉(チキン、ターキーなど)、豚肉、牛肉、カンガルー肉、魚肉(サーモンなど)など、さまざまなタイプがあります。
また、アレルギー対応などの目的で、穀物をふくんでいないグレインフリーやグルテンフリーのタイプもあります。
原材料はペットフードの袋や缶詰に記載されていますので、不要な添加物が含まれていないかなどもあわせて確認してみましょう。
また、原材料の選び方については、獣医師と相談のうえ、愛犬の好みやアレルギーなどを考慮しましょう。
療法食を与えるときのポイント
獣医師の指導のもとで与える
療法食は、獣医師の診断・指導のもとで適切量を与える必要があります。
腎臓病を発症する前から、予防の目的で腎臓病療法食を与えたがる飼い主がいますが、健康な犬に療法食を与えると必要な栄養素を充分に摂取できないおそれがあります。
新鮮な水を与える
慢性腎臓病が進行すると、体内に必要な水分量を確保できず、脱水症状になる危険性があります。
そのため、いつでも新鮮な水を飲めるように飲水を頻繁に交換する、水が飲める場所を複数設置するなど、愛犬が水分をしっかり摂れる環境を用意しましょう。
犬が腎臓病療法食を食べないときは?
療法食は通常のドッグフードと味が異なるため、急にフードを切り替えると愛犬が食事をあまり食べなくなる可能性があります。
そのため、腎臓病療法食への切り替えは、1週間〜1か月程度の時間をかけて、これまでのドッグフードから療法食へ少しずつ変更していくのがポイントです。
慢性腎臓病はステージが進むほど食欲の低下がみられます。愛犬の食欲が低下してきた場合は消化吸収を良くして食欲をそそるようにするため、以下のように工夫してみるのもおすすめです。
- フードを温めて匂いを増す
- ドライフードに水分を加えて、ウエットフードのように柔らかくする
- 食事を少量ずつ数回に分けてあげる
療法食への切り替えについて困った時は、以下の記事も参考にしてみてください。
療法食とその他ドッグフードとの違いは?
犬や猫のペットフードは「ペットフードの表示に関する公正競争規約」により、以下のように分類されています。
- 総合栄養食
- 間食(おやつ、トリーツ)
- 療法食
- その他の目的食
療法食と総合栄養食の違い
療法食は、特定の病気や症状をもつ犬のために栄養バランスが調整されたドッグフードです。獣医師の診断・指導のもとで与える必要があります。
一方、総合栄養食は健康な犬の主食として与えることを目的としたドッグフードです。そのため、適切な量の総合栄養食と新鮮な水を与えることで、健康を維持できるよう栄養素がバランスよく調整されています。
年齢や体重に合わせて栄養基準が設けられており、1日に与える量や回数などが、年齢や体重に応じて表示されています。
子犬用・成犬用・シニア用などのライフステージに合わせたものや犬種別など、それぞれに合わせた栄養構成のフードがあります。
療法食と機能性ペットフードの違い
機能性ペットフードとは「その他の目的食」に分類されるもので、特定の栄養の調整やエネルギー補給などを目的としたドッグフードです。
療法食のように病気の治療や食事療法を目的としたフードではありません。
人間の「機能性食品」のように、健康維持のためのサプリメントや栄養補助食品などの位置づけとして考えましょう。
腎臓病用の療法食は手作りできる?
飼い主の中には、腎臓病の犬のために何かしてあげたい気持ちなどから腎臓病食を手作りする方がいます。
しかし、腎臓病の犬の食事は、「犬の腎臓病療法食・5つの特徴」で説明したように、さまざまな栄養素・エネルギーの調整が必要です。
そのため、腎臓病のごはんを手作りで用意するのは極めて困難です。
また、ネットにはさまざまな情報があるため、それらの不確かな情報をもとに腎臓病食を手作りすると、逆に愛犬の健康を損なう危険があります。
大切な愛犬のために、腎臓病に最適な栄養・カロリーを配合した療法食の活用をおすすめします。
犬の腎臓病には療法食でケアを
犬の慢性腎臓病は、一度かかってしまうと腎臓の機能回復は見込めません。そのため、腎臓病を早期に発見し、早期に食事療法を始めることが愛犬の健康を長く維持するために重要です。
腎臓病に最適なリン・カリウムなどのミネラル、タンパク、エネルギーが計算・調整された療法食を取り入れ、愛犬の腎臓の健康をサポートしましょう。